日本が世界に誇る食文化のひとつに、日本酒がある。日本ではアルコール一般を指す「サケ」は、ひとたび海を渡れば日本酒を指す共通語であることからも、日本酒の存在感をうかがい知ることができるだろう。この記事では、日本の文化の象徴とも言うべき日本酒の魅力と、その伝統的な存在をアップデートし”RETRO REVIVAL”な存在を目指そうとする挑戦についても紹介する。
日本の伝統とともに発展してきた日本酒
日本酒の起源に目を向けてみよう。3世紀に成立した『三国志』にはすでに、倭人(日本人のこと)が酒を嗜んでいたことを示す「歌舞飲酒」という言葉が記されている。また、『日本書紀』には、日本神話の代表的神格であるスサノオノミコトがヤマタノオロチを退治するために八塩折之酒(やしおおりのさけ)という八度にわたって醸す酒というものを造らせる記述があり、これを日本酒の起源と見る説もある。いずれにせよ、日本の国の起源にすでに日本酒の原型があり、古くから日本人が日本酒を嗜んできたことがわかるエピソードだ。
米を原料とした酒が歴史上にはっきりと登場するのは600年代後半から700年代にかけてである。『播磨国風土記』『大隅国風土記』などの日本各地の風土記にさまざまな酵素を用いた日本酒が登場し、『古事記』には朝鮮より来朝し帰化した須須許里が日本酒を献上したというエピソードがある。


その後朝廷による日本酒づくりが盛んになり、日本酒は朝廷のための献上品として栄えていく。同時に神事にも欠かせない存在となり、全国の寺院が酒造を行いながら全国に日本酒づくりが広まっていたことを考えれば、日本酒の起源が日本の文化そのものを象徴するものだということにも頷けるだろう。

日本中に眠る伝統の金脈、酒蔵
日本酒の起源に続いて、次は全国に広がる酒蔵について見てみよう。現在日本にある酒蔵の数は1400以上(参考:国税庁 清酒製造業の概況)、銘柄は1万以上と言われている。特に有名な3つの産地を紹介しよう。
ひとつめは兵庫県。かつて播磨国(はりまのくに)と呼ばれた兵庫県南部は、「日本酒のふるさと」と親しまれる地域で、麹を用いた日本酒づくりをいちはやく始めたと言われている。「白鶴」「大関」「菊正宗」など著名な酒蔵が多く存在している。
ふたつめは京都。「月桂冠」「松竹梅」「黄桜」など知名度の高いブランドを抱える背景には、稲作が始まった弥生時代から伝統を守り、安土桃山時代に豊臣秀吉が伏見城を築城したのに伴って酒造りが盛り上がったのだ。
みっつめは新潟県。日本酒の原料である米、水、風土が揃っている新潟県が持つ酒蔵の数は90を超える。中でも淡麗辛口の日本酒が有名で、良質な雪解け水と酒づくりに合った酒米を強みに日本の日本酒生産を支えている。
日本全国に散在する酒蔵は、それぞれに使う米、麹、水が少しずつ異なり、ひとつとして同じ味のないその酒蔵だけの製法を守り続けている。少しの気温や湿度でも味が変化するという日本酒の産地が1400もあるというだけで、伝統に守られた宝が眠る国のように思えてくるから不思議だ。
日本酒の最高峰と言えば
さて、その日本酒の最高峰と言えば何を思い浮かべるだろうか?ここで、日本の出荷数1位を誇る獺祭について触れておこう。獺祭を作る旭酒造株式会社は山口県岩国市にある酒造メーカーだ。現社長の桜井博志氏が代表に就任してから「酔うため 売るための酒ではなく 味わう酒を求めて」とのポリシーの下で獺祭のみを製造するスタイルに舵を切った。中でも獺祭磨き二割三分は傑作中の傑作。華やかな香り、きれいな蜂蜜のような甘み、切れの良さと上品な余韻が続く名作、一度は飲んでみたい。
伝統を受け継ぎながらアップデートされていく日本酒
ここまで日本酒の起源、産地、酒蔵、代表的な一品を見てきた。ここからはこの伝統的な遺産をアップデートしようとする取り組みを紹介していこう。故きを温ねて新しきを知る、レトロな伝統に新しい風を吹き込む”RETRO REVIVAL”な取り組みだ。
まず、日本酒がどのくらい飲まれているかを皆さんはご存知だろうか。農林水産省のデータによれば、日本酒の国内出荷量は、昭和48年のピーク時には170万㎘を超えていたが、平成30年以降は国内出荷量は減少が止まらず、令和2年では42万㎘程度までになっている。それならばとメーカーが目を向けたのは、これまでになかった市場だ。”RETRO REVIVAL”を楽しめる海外顧客へのアピール、そしてブランディングを始めたのである。

日本酒をフランスで作るWAKAZE
「日本酒を世界酒に」を合言葉にフランス・パリと日本で日本酒を作る挑戦をしているのがWAKAZEだ。フランスで生産する日本酒は、米、麹、水のすべてをフランスで生産し、斬新なデザインのボトルに日本酒を詰め込んだこだわりの品。現地のクラウドファンディングでの躍進を見れば、日本酒がフランスで興味と驚きをもって受け入れられていることがわかるはずだ。
このような海外に販路を見出す、あるいは海外で日本酒を生産する試みの成果を見てみよう。WAKAZEが拠点を置くフランスの日本酒からヨーロッパへの輸出をみると、英国が27万5484リットルで、最も多く、英国とほぼ同人口数のフランスへの輸出量は 11 万 7315 リットルと英国の半分となっており、輸出量が増えたとは言えない。しかし、ここに興味深いデータがある。フランスにおける日本酒の単価は 2005 年のリットル当たり 500 円から、2013 年には同 900 円まで上がり、そのまま上昇を続けているのだ。日本酒そのものの価値が見直され、贅沢品としての価値を作り出すことに成功していると言えるだろう。

引用元:https://www.wakaze-store.com/pages/brewery
SNSを強みに個性的なコンセプトの日本酒を扱う酒店「KURAND」
「酒を売る犬 酒を造る猫」「理系兄弟」「雪だるま25号」。なんだかわからないけれど、エモーショナルに訴えてくるこのフレーズ、全て日本酒の名前である。日本酒をはじめとする酒をストーリーとともに売ることをテーマにしたオンラインショップ「KURAND」が全国の酒蔵に掛け合い作る個性的な商品の数々は、伝統的な酒蔵の美味しさに、”エモさ”やストーリーを乗せてアップデートし、SNSを中心に支持を集めている。
デザインの力でシーンを広げる日本酒たち
最後に、デザインの力で日本酒そのものの存在感をアップデートしている挑戦者たちを紹介しよう。伝統的なデザインの良さも捨てがたいが、モダンに、ときにアイコニックに形を変えたこれらの日本酒は、ギフトやインテリアとして新しい利用シーンを開拓してくれる。
日本酒 錦鯉 KOI、沢の鶴X02(エックスゼロツー)、そして「Ohmine」だ。





これらの成果は、その販売価格や売れ行きで評価するのが妥当だろう。2022年の日本酒の一本単価は950円。それに比べ、これらのブランディングとデザインに力をいれた日本酒は一本3000円〜15万円までと、なかなかの値段をつけている。さらに、上述の「錦鯉」 [X01]、「白鶴」のリデザインされたブランド「別鶴」など新興ブランドからレガシーブランドまでがグッドデザイン賞に選ばれるなど、受賞や完売のニュースが次々に聞こえてくることを鑑みると、日本酒の温故知新の”RETRO REVIVAL”は成功していると言える。特別な日のアルコールに、大切な人へのギフトに日本酒が候補にあがる日はすぐそこまできていると言えるだろう。
日本酒は味わえる伝統文化
1500年以上前から人々の間で愛されてきた食文化でありながら、その存在がアートにもインテリアにも、そしてストーリーにも昇華させられつつある日本酒。日本中に存在する酒蔵に思いを馳せつつ、この古くも新しい文化を嗜める喜びを噛みしめることにしよう。

日本が世界に誇る食文化のひとつに、日本酒がある。日本ではアルコール一般を指す「サケ」は、ひとたび海を渡れば日本酒を指す共通語であることからも、日本酒の存在感をうかがい知ることができるだろう。この記事では、日本の文化の象徴とも言うべき日本酒の魅力と、その伝統的な存在をアップデートし”RETRO REVIVAL”な存在を目指そうとする挑戦についても紹介する。
日本の伝統とともに発展してきた日本酒
日本酒の起源に目を向けてみよう。3世紀に成立した『三国志』にはすでに、倭人(日本人のこと)が酒を嗜んでいたことを示す「歌舞飲酒」という言葉が記されている。また、『日本書紀』には、日本神話の代表的神格であるスサノオノミコトがヤマタノオロチを退治するために八塩折之酒(やしおおりのさけ)という八度にわたって醸す酒というものを造らせる記述があり、これを日本酒の起源と見る説もある。いずれにせよ、日本の国の起源にすでに日本酒の原型があり、古くから日本人が日本酒を嗜んできたことがわかるエピソードだ。
米を原料とした酒が歴史上にはっきりと登場するのは600年代後半から700年代にかけてである。『播磨国風土記』『大隅国風土記』などの日本各地の風土記にさまざまな酵素を用いた日本酒が登場し、『古事記』には朝鮮より来朝し帰化した須須許里が日本酒を献上したというエピソードがある。
その後朝廷による日本酒づくりが盛んになり、日本酒は朝廷のための献上品として栄えていく。同時に神事にも欠かせない存在となり、全国の寺院が酒造を行いながら全国に日本酒づくりが広まっていたことを考えれば、日本酒の起源が日本の文化そのものを象徴するものだということにも頷けるだろう。

日本中に眠る伝統の金脈、酒蔵
日本酒の起源に続いて、次は全国に広がる酒蔵について見てみよう。現在日本にある酒蔵の数は1400以上(参考:国税庁 清酒製造業の概況)、銘柄は1万以上と言われている。特に有名な3つの産地を紹介しよう。
ひとつめは兵庫県。かつて播磨国(はりまのくに)と呼ばれた兵庫県南部は、「日本酒のふるさと」と親しまれる地域で、麹を用いた日本酒づくりをいちはやく始めたと言われている。「白鶴」「大関」「菊正宗」など著名な酒蔵が多く存在している。
ふたつめは京都。「月桂冠」「松竹梅」「黄桜」など知名度の高いブランドを抱える背景には、稲作が始まった弥生時代から伝統を守り、安土桃山時代に豊臣秀吉が伏見城を築城したのに伴って酒造りが盛り上がったのだ。
みっつめは新潟県。日本酒の原料である米、水、風土が揃っている新潟県が持つ酒蔵の数は90を超える。中でも淡麗辛口の日本酒が有名で、良質な雪解け水と酒づくりに合った酒米を強みに日本の日本酒生産を支えている。
日本全国に散在する酒蔵は、それぞれに使う米、麹、水が少しずつ異なり、ひとつとして同じ味のないその酒蔵だけの製法を守り続けている。少しの気温や湿度でも味が変化するという日本酒の産地が1400もあるというだけで、伝統に守られた宝が眠る国のように思えてくるから不思議だ。

日本酒の最高峰と言えば
さて、その日本酒の最高峰と言えば何を思い浮かべるだろうか?ここで、日本の出荷数1位を誇る獺祭について触れておこう。獺祭を作る旭酒造株式会社は山口県岩国市にある酒造メーカーだ。現社長の桜井博志氏が代表に就任してから「酔うため 売るための酒ではなく 味わう酒を求めて」とのポリシーの下で獺祭のみを製造するスタイルに舵を切った。中でも獺祭磨き二割三分は傑作中の傑作。華やかな香り、きれいな蜂蜜のような甘み、切れの良さと上品な余韻が続く名作、一度は飲んでみたい。

伝統を受け継ぎながらアップデートされていく日本酒
ここまで日本酒の起源、産地、酒蔵、代表的な一品を見てきた。ここからはこの伝統的な遺産をアップデートしようとする取り組みを紹介していこう。故きを温ねて新しきを知る、レトロな伝統に新しい風を吹き込む”RETRO REVIVAL”な取り組みだ。
まず、日本酒がどのくらい飲まれているかを皆さんはご存知だろうか。農林水産省のデータによれば、日本酒の国内出荷量は、昭和48年のピーク時には170万㎘を超えていたが、平成30年以降は国内出荷量は減少が止まらず、令和2年では42万㎘程度までになっている。それならばとメーカーが目を向けたのは、これまでになかった市場だ。”RETRO REVIVAL”を楽しめる海外顧客へのアピール、そしてブランディングを始めたのである。
「作品は各ギャラリーにこれといって特別なオーダーを出したわけではなく、それぞれのとっておきを持ってきていただきました。ダミアンハーストなんかは、僕が「持ってきてよ」と声をかけましたけどね。こうしてみるとギャラリーの色が自然に出て、面白いでしょう」
日本酒をフランスで作るWAKAZE
「日本酒を世界酒に」を合言葉にフランス・パリと日本で日本酒を作る挑戦をしているのがWAKAZEだ。フランスで生産する日本酒は、米、麹、水のすべてをフランスで生産し、斬新なデザインのボトルに日本酒を詰め込んだこだわりの品。現地のクラウドファンディングでの躍進を見れば、日本酒がフランスで興味と驚きをもって受け入れられていることがわかるはずだ。
このような海外に販路を見出す、あるいは海外で日本酒を生産する試みの成果を見てみよう。WAKAZEが拠点を置くフランスの日本酒からヨーロッパへの輸出をみると、英国が27万5484リットルで、最も多く、英国とほぼ同人口数のフランスへの輸出量は 11 万 7315 リットルと英国の半分となっており、輸出量が増えたとは言えない。しかし、ここに興味深いデータがある。フランスにおける日本酒の単価は 2005 年のリットル当たり 500 円から、2013 年には同 900 円まで上がり、そのまま上昇を続けているのだ。日本酒そのものの価値が見直され、贅沢品としての価値を作り出すことに成功していると言えるだろう。

SNSを強みに個性的なコンセプトの日本酒を扱う酒店「KURAND」
「酒を売る犬 酒を造る猫」「理系兄弟」「雪だるま25号」。なんだかわからないけれど、エモーショナルに訴えてくるこのフレーズ、全て日本酒の名前である。日本酒をはじめとする酒をストーリーとともに売ることをテーマにしたオンラインショップ「KURAND」が全国の酒蔵に掛け合い作る個性的な商品の数々は、伝統的な酒蔵の美味しさに、”エモさ”やストーリーを乗せてアップデートし、SNSを中心に支持を集めている。

デザインの力でシーンを広げる日本酒たち
最後に、デザインの力で日本酒そのものの存在感をアップデートしている挑戦者たちを紹介しよう。伝統的なデザインの良さも捨てがたいが、モダンに、ときにアイコニックに形を変えたこれらの日本酒は、ギフトやインテリアとして新しい利用シーンを開拓してくれる。
日本酒 錦鯉 KOI

沢の鶴X02(エックスゼロツー)

「Ohmine」

これらの成果は、その販売価格や売れ行きで評価するのが妥当だろう。2022年の日本酒の一本単価は950円。それに比べ、これらのブランディングとデザインに力をいれた日本酒は一本3000円〜15万円までと、なかなかの値段をつけている。さらに、上述の「錦鯉」 [X01]、「白鶴」のリデザインされたブランド「別鶴」など新興ブランドからレガシーブランドまでがグッドデザイン賞に選ばれるなど、受賞や完売のニュースが次々に聞こえてくることを鑑みると、日本酒の温故知新の”RETRO REVIVAL”は成功していると言える。特別な日のアルコールに、大切な人へのギフトに日本酒が候補にあがる日はすぐそこまできていると言えるだろう。
日本酒は味わえる伝統文化

1500年以上前から人々の間で愛されてきた食文化でありながら、その存在がアートにもインテリアにも、そしてストーリーにも昇華させられつつある日本酒。日本中に存在する酒蔵に思いを馳せつつ、この古くも新しい文化を嗜める喜びを噛みしめることにしよう。